歯科医院の賢い節税入門〜節税の種類と対策〜

税務

こんにちは、島田(つぶやきはこちら)です。

開業されていると多くの節税商品と勧められると思います。

まあどれも魅力的な言葉が並べられているはずですが、まずは節税の前提を知っておきましょう。

え、なぜ前提知識が必要なのかというと。

医療で例えるなら保険診療と自由診療の違いくらい重要だからです。

歯科医療人ならその違いは理解していて当然ですが、理解できていない一般患者さんは”安いから”とか”最新治療法だから”という感覚で選択を決めてしまいがちじゃないですか

それを患者さんの状況に応じて正すのが専門家の役割ですよね。

実は節税も同じで選択肢がいくつかあるのですが、専門家と一般納税者との情報格差は大きいのが現状で。

特定の節税手法であっても使うべき場面は事業者の状況によってまちまちなんですよね。

この記事を読んでいただければ変な節税商品には引っかからないようになると思いますので、ブックマークなど保存機能を使って何度も読み返していただければ嬉しいです。

節税の種類

まず節税には大きく分けて2種類あります。

それは支出が必要な節税と、支出が不必要な節税です。

ちなみに支出とはお金を払う行為をいいます(当然ですね)。

まずこれを聞いて、どちらがお得だと思いますか?

断然後者、支出が不必要な節税ですよね。

でもですよ。

多くの節税商品と謳われるもののほとんどは前者の節税なんです。

まずはここから意識改革していく必要があります。

じゃあ節税商品はこの事実をちゃんと伝えていますか?購入前に説明はありましたか?

おそらくそんな丁寧な説明はないと思うんですよね(もちろんしっかり事前説明されている方もいらっしゃるかと思います)。

それはなぜか。

理由は単純で節税商品を販売する事業者が儲からないからです。

販売した側としては対価をお金で受け取る必要があるので、支出が必要な節税を商品として販売するんです。

先に言っておきますが、支出が必要な節税が悪だと言いたいわけではありません。

目的にあった支出をした結果、節税になるならそれでいいんです。

でも目的がない節税、つまり税金を減らすことが目的になってしまっている支出が必要な節税は逆にお金を失うことになりかねません

なのでお金の支出が必要な節税と、支出が不必要な節税をしっかり見極められる最低限の知識は持っておいていただきたいのです。

ということで次からは具体的にどんな節税あるのかを解説していきます。

支出が必要な節税

減価償却費を計上する

まず”減価償却費で節税”という文言に出会ったら一旦立ち止まってください

というのも減価償却費の節税って、いつかは経費計上される費用をいつ取るかだけの違いだからです。

1,000万円の医療機器を買ったらトータル1,000万円の減価償却費を経費計上できるのですが、極論1年目で全額計上するか、7年間にならして取るの違いになります。

だからトータルで見たら節税になってない可能性も高いんですよ。

というか減価償却費を取るためには1,000万円の設備投資が必要であり、そのためにキャッシュは失っているわけで。

そりゃ毎期の利益の大小による税率差でお得なることはありますが、かなり精密な利益予測が必要なので結構難易度高いのが現実です。

減価償却費は医療機器に紐づくものはもちろんですが、昔からあるあるの航空機・船舶のオペリース取引による節税もこの類になります(カラクリの説明は省きますが)。

ちなみに減価償却費(減価償却)の概念はこちらで説明したことがあるので参考にしていただければと。

https://www.threads.com/@shimada.masaki_15/post/DKLdTa_yp07?xmt=AQF0PfKvcC9WMoktaPHGsddS2ArmqdU05XP7SADUhuHJiA&slof=1

経費を増やす

期末に利益が出そうだからという理由で広告に投資したり、消耗品を買ったりするのは、まさにお金の支出が必要な節税の典型例です。

ここで気をつけたいのは最終的にいくら手元にお金が残るのかという視点ですね。

節税の目的は税金を減らすことではなくて、手元に残るお金を増やすことじゃないですか。

わかりやすい例で、1,000万円の利益に税金が30%かかるとします。

経費を増やして節税しない場合

  • 利益:1,000万円
  • 税金:利益1,000万円×30%=300万円
  • 手元に残るお金=利益1,000万円ー税金300万円=700万円

1,000万円の経費を増やして節税した場合

  • 利益:1,000万円ー経費1,000万円=0
  • 税金:利益0円×30%=0円
  • 手元に残るお金=利益0円ー税金0万円=0万円

とまあ結果は歴然で、不要な経費を計上すると税金は減りますが、必然的に手元に残るお金が減ります。

つまり利益をそのまま残しておけば人件費のベースアップや設備投資の軍資金に使えたのに、それがなくなるということになりますね。

”経費を増やして節税”は、将来の事業投資への足枷になりかねません。

もちろん、余剰資金で必要な経費を使うことを否定はしませんし、むしろ推奨します。

掛金を拠出する(iDeCo、小規模企業共済、中小企業倒産防止共済、生命保険)

お金を拠出する節税もたくさんあります。

拠出なので正確には消費していないけど、経費計上できたり所得控除を受けたりすることができます。

(経費計上と所得控除の違いは本論ではないので割愛させていただきます。)

ただ一旦は自分の手元から資金が出ていくことには変わりないので、お金の支出が必要な節税に分類しています。

注意点はお金を消費していないけど自由に引き出せずブロックされるということ、です。

たとえばiDeCoなら原則として60歳まで引き出せません。

個人事業主なら掛金は最大で毎月7万円。

仮に40歳で開業すると20年(240ヶ月)引き出せないことになるので、7万円×240ヶ月=1,680万円のお金が事業投資に使えないということになります。

このお金で節税以上の利益率(投資利回り)を出すことができれば、iDeCoに突っ込よりお金は貯まるということになります。

ただ拠出するお金は将来への備えとしての役割もあるので、ここら辺の判断は事業計画とじっくり向かい合いながら決めていく必要があります。

支出が不必要な節税

次は支出が不必要な節税の代表例を紹介していきますが、事業者(納税者)の選択で節税額が変わるのが特徴です。

なので知っているか、知らないかで差が出てくるともいえますね。

税額控除の適用

税法のルールには、国が政策にしたがって事業者の経済活動を支援するための優遇税制があります。

たとえば国は積極的に設備投資をして欲しいと考えているので、設備投資をすると節税できる優遇税制を用意していて。

で、この優遇税制のなかには税額控除という節税手法があります。

税額控除はたとえば1,000万円のものを買うとその7%、つまり70万円が所得税(もしくは法人税)から控除できるというシステムです。

税額控除がお得なのは、普通の資産と同じように取得価額に対する減価償却費を経費計上できることに加えて、取得価額×何%の節税ができることにあります。

なので税額控除が真の節税と言われたりします。

ただ、歯科(医療機関)の場合は、ほとんど医療機器は対象にならず、一部電子カルテなどのソフトウェアが対象になることにご注意ください。

税額控除が取れる制度は他にも賃上げ促進税制などがあるので、これも適用要件を満たしていてないか(満たすように工夫できないか)税理士と要確認が必要です。

概算経費の特例

医療機関にとってはもっとも代表的な節税手法です。

経費は原則的には払った実額になりますが、この特例を使うとある一定のルールに基づいた概算の金額を経費にすることができます。

経費は多ければ多いほど節税できるので、実額<概算額なら節税できることになるんですね。

ただこの特例には要件がありまして、

  • 社会保険診療報酬が年間5,000万円以下
  • (自費診療含めた)総収入金額の年間合計額が7,000万円以下

の両方を満たしている必要があります。

ただ、事前の届出は必要なく、確定申告のとき選択すればOKです。

なのでじっくり原則と特例を比較する時間があるということですね。

あとこの特例は開業初期はもちろんですが、開業後ある程度経って売上が減少したり、引退に備えて医院規模を意図的に縮小したりする際も適用対象になる可能性があります

適用漏れがないようにしましょう。

消費税の計算方法の選択

個人的感覚ですが、医療機関の最重要税目は法人税(医療法人)や所得税(個人医院)ではなく、消費税だと思ってます。

というのも法人税や所得税で減らせる税金はお金の支出が先行だったり、結局課税の繰り延べ(今税金減っても将来増える)だったりで、トータルで節税の恩恵があるか怪しいからです。

いっぽうで消費税はバカ高い医療機器の設備投資のタイミング、自費と保険の割合、自費売上高の金額の違いで、計算方法の選択ができるのですが、その選択だけで普通に何十万何百万と税額が変わるのが当たり前で。

しかも事前に来期の予測をして選択しておかないといけないルールが多いので、税理士とのコミュケーションが非常に大切になります

この消費税の選択も、先ほどの概算経費の特例の選択と同様に、事前シミュレーションが肝心なのでよくご検討していただければと思います。

専従者給与の経費算入

専従者給与の経費算入は、たとえば配偶者である妻が個人事業主の夫のもとで働いていれば、妻が夫から受け取る給与を通常の従業員と同じようにその夫が経費計上できるという特例的ルールになります。

なぜこれが特例なのかというと、税法上、一緒に住んでいる家族への給与は経費にはできないのが原則だからです。

税法には世帯は一つの財布とみなすという考え方があるんですね。

この考え方に立てば、配偶者への給与は単に家庭内でお金が移動しただけで消費はされてません。

でも経費にできるのです。

だから支出が不必要な節税に分類しています。

ちなみに、この制度を適用するには要件を満たしたり、届出を出したりする必要があるので注意が必要です。

不要医療機器の除却

使っていない資産を放置せず、「もう使いません」と除却処理してしまえば、その時の帳簿価額(会計上の価値)を経費計上することができます。

通常使い続けていれば減価償却費で経費計上されていくのですが、その残りを除却のタイミングで一気に経費計上するイメージです。

ただですね。

歯科の医療機器の除却は、除却するだけでもお金がかかり、かつ、業者を手配しないと正式に除却しづらいこともあるかと思います。

なので、あまり活用ケースとしては少ないかと思いますし、金額もそこまでインパクトがあるケースも少ないかと予想しています。

節税の手順

じゃあ支出が必要な節税と不必要な節税どちらが優先かというと、これは説明するまでもなく支出が不必要な節税です。

順番を守り、支出が不必要な節税をやり切ってから、支出が必要な節税を考えるようにしましょう

※医療法人化は確かに節税対策になりますが、今回の記事には沿わなかったので割愛させていただきました。別の機会に解説します。



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