こんにちは、島田(つぶやきはこちら)です。
「うちって給料払いすぎてないですかね?」
院長さんからこんな質問を受けますが、歯科医院の固定費の半分は人件費が占めている(ことが多い)ので、気になるのは当然のことかと。
人手不足で常に求人の条件を考えている方も、人件費の適正化は悩みの種かと思います。
この記事では人件費の適正度合いを調べる方法と、改善案に焦点をあてて話をしていきます。
内容に入る前に、まず理解して欲しいことがあります。
それは、人件費率に絶対的な正解はないこと、です。
初っ端から肩透かしを食らったかと思いますが、これは真実です。
むしろこれらを理解しておくことが、あるべき人件費に辿りつくための条件と言っても過言ではなく。
まずはその理由から説明していきますね。
人件費率に絶対的な正解はない
人件費率ってなに?
ここでいう人件費率は労働分配率のことを指します。
(通常は売上に占める人件費の割合のことを指すことが多いですが、言葉の馴染みやすさ優先で人件費率という言葉を使っていきます。)
簡単にいうと粗利に占める人件費の割合です。
また聞き慣れない言葉が出てきましたね。
大丈夫です、ちゃんと解説します。
- 人件費率=人件費
粗利
- 人件費=損益計算書の給料手当+福利厚生費+法定福利費
- 粗利=売上(保険診療報酬と自由診療報酬、物販売上の合計)ー原価(材料費や外注技工料など、患者数が増えれば増える費用)
こんな感じです。
厚生労働省が公表している医療経済実態調査によると、だいたい人件費率は30〜35%が平均値になります。
なぜ人件費率に正解はないのか
医院の内情によって人件費率の適正値は大きく異なってきます。
むしろ参考にならない可能性のほうが高いのではないかと、個人的にはそう感じるくらいで。
理由は予防(メンテナンス)の割合、フランチャイズの有無、オペレーションルール、開業歴、借入依存度、院長の生活水準等で適正値はまったく違ってくるからです。
同じユニット5台の医院でも、歯科衛生士は3人体制というところもあれば、6人体制というところもありますよね。
診療メニューの違いだったり、院長さんの考え方だったりでスタッフさんの人員数や配置が変わってきます。
よく人件費は医療収益の20%に収まっていれば問題ないと言われていますが、じゃあ本当にその範囲内なら全ての医院でキャッシュが順調に積み上がっているのかは誰にも分かりません。
なので他医院を参考にしたところで、「うちには無理だな」「うちとやり方が全然違うからな」という感じで実務に落とし込めるケースは少ないんですね。
少なくとも僕が見ている限りそうです。
あとは単純に、他医院の経営がうまく回っているは分からないという理由もあります。
身近な先輩に人件費率を質問したら教えてくれるでしょう。
でもその先輩の医院の利益率はじゅうぶんか、もっというと待遇についてスタッフさんが不満に思っていないかはブラックボックスです。
しかも先輩が財務諸表を正確に把握されているかも分かりません。
なので本当はうまくいってないのにこちらが正解だと思い込んで参考にしたら間違った方向に進むことになります。
平均も先輩の数字も「他人は他人。自分は自分。」の域は出ないんですね。
自院だけの正解を探す3ステップ
とはいえ自院の人件費の適正値を測る方法がないとなると、残念な気持ちになると思います。
それだと経営改善ができないので、別の方法で考えるしかありません。
僕がおすすめする方法はこの3ステップです。
- 最終的なキャッシュが増えているかを確認する
- 過去の人件費率と比較する
- ①と②に相関性はないかを検証する
順に説明していきますね。
❶最終的なキャッシュが増えているかを確認する
まず見失っていただきたくないのは、適正な人件費を把握する目的です。
その目的は医院に利益をじゅうぶんに残すため、もっというとキャッシュを貯めるためですよね。
なので現在の人件費が良いか悪いかを判断するには、同時にキャッシュが増えているか減っているかの確認が必要になります。
見るべき書類は貸借対照表です。
貸借対照表の左上に現金預金の残高が記載されているので、試算表なり決算書で確認してみてください。
理想は年単位であれば3ヵ年分、月単位であれば毎月を直前12ヶ月を並べてスプレッドシート等に整理して推移を一覧にしてみましょう。
あ、そうそう。
当然ですが個人事業主であれば院長報酬(つまり院長さんの生活費)を控除した後の金額で比較してください。
事業用口座から生活費を引き出していたり、生活用のクレジットカードが事業用口座に紐づいていたりしたら、当然ながらそれ込みでキャッシュフローを考えないといけないからです。
❷過去の人件費率と比較する
❶で過去の試算表や決算書を引っ張ってこれたなら、せっかくなので人件費率の推移も算出してみてください。
(算定方法は上の箇条書きをご参考ください。)
これも年単位の割合と月毎の割合のどちらもあるといいですね。
それが準備できたら今の人件費率とも比較しましょう。
上昇しているか減少しているかを確認できたら、次はその要因を考えるステップにはいります。
❸❶と❷に相関性はないかを検証する
この最後のステップがいちばんのポイントになります。
まずはキャッシュの増減と人件費率に相関関係がないか時系列で確認してみましょう。
パターンとしては4つ考えられます。
- キャッシュが増えていて人件費率も増えている
- キャッシュが増えているが人件費率は減っている
- キャッシュが減っているが人件費率は増えている
- キャッシュが減っていて人件費比率も減っている
キャッシュも人件費率も増えているのであれば、通常は順調に医院を拡大しているフェーズと言ってもいいでしょう。
キャッシュが増えているので「給料払いすぎかな」という心配は不要ということですね。
ただ、人件費率が増え続けているのであれば、いつかは限界が来るのはいうまでもなく。
限界を超えたらキャッシュが減り始めることになるので、その分岐点を今のうちに見極めておくことをおすすめします。
たとえば現在の人件費率が40%だったら、(他の条件は変えずに)45%になるとどうなるか、というシミュレーションをしてみるという感じですね。
次にキャッシュが増、人件費率減のケースは財務的にみればいちばん理想的です。
スタッフさん一人当たりの生産性が上げり続けている証でもありますし。
とはいえスタッフ数が足りていないのであればそれはそれで問題です。
いつか既存スタッフさんの疲弊が限界が来るので。
これを防ぐためにベースアップや賞与での還元を実施して、多少のキャッシュを犠牲にしてでも(人件費率を上げてでも)待遇面の魅力を高める戦略をとるのも有効です。
反対にキャッシュが減っていて人件費率が増えているのは財務的には良くない状態です。
人件費率の上昇が資金繰りを圧迫している可能性が高いからです。
この時代に待遇面をショボくするのは御法度だと思いますので、できることは生産性の向上ですね。
生産性の向上は一人当たりが生み出す粗利を増やすことを意識してみてください。
人件費率が粗利を分母とする割合なので、粗利の重要性は分かっていただけるかと。
そのためには、自費診療の割合や価格設定の見直し、事務作業の効率化(AIの活用など)が急務です。
とはいいつつ、開業初期はほとんどの医院さんがこのフェーズを踏んでいくのでそれほど悲観する必要はありません。
最後にキャッシュが減っていて人件費率が減っているのは、医院の規模縮小が想定されます。
キャッシュが減っているので不安に思う方もいるかもしれませんが、規模が縮小すれば必要な運転資金も減るので、そこまで焦る必要はなく。
ただ医院の固定費には人件費以外にもリース料、水道光熱費、修理費がありますし、借入があれば返済も固定で支出しているので、これらに必要なキャッシュフローがまわる運転資金が確保できるかは常にウォッチしていく必要があります。
税理士に相談してみよう
と、こんな感じで具体的な手法を説明してきましたが、数字に苦手意識のある方もいらっしゃるかと。
そういう方はぜひ顧問税理士さんに協力をお願いしてみてくださいね。
毎月面談されているようであれば、次の面談のときにこれをやってみたいです、と伝えてみましょう。
もしそういった相談ができない状況であれば僕を頼っていただいても大丈夫です。
単発相談も承っていますので、インスタにDMいただければご要望にあったメニューをご提案させていただきます。
「人件費払い過ぎていないか」この問題に終止符を打ちましょう。
